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一人の投資銀行家として、顧客にサービスを提供することと、投資家として市場で行動することは並存しないと考えている。 以前、私の会社には、スイスの友人と合弁の会社が資産運用する「インターナショナル・バイオメディスン・ホールディングス」というベンチャー・キャピタル・ファンドがあった。
そのファンドはスイスに設立したが、数年前これを売却してしまった。 何故ならば、顧客サービス業に徹底することにしたからだ。
ほんの一部、自分たちの小遣いでベンチャー企業に投資したり、合弁投資会社をつくって投資活動を行っているが、これは特定の投資ニーズを持つ顧客へのサービスの一環という位置付けで、当社が自己判断で勝手に運用し、投資収益を上げるというファンドとは似て非なるものとなっている。 しかし、多くの投資銀行は、当社とは逆の選択をしてきた。
顧客サービス業をしても、リスクは取らない一方、微々たる収益しか上がらない。 絶対的に大きな収益を上げるのであれば、大きなバランス・シートで相場を張った方がいい。
また会社の中で、業績比較をするならば、バブルにうまく乗って投資が失敗しない限り、相場を張って儲けている自己勘定投資部門のトレーダーの方が、たくさんの書類の山に埋まり、毎晩夜中まで働いているバンカーよりもはるかに成績が良い。 こうなると、会社の中で自己勘定投資部門が台頭し、バンカーたちは肩身の狭い思いをするようになる。

投資銀行によっては、バンキング部門は「プロフィット・センターではゴールドマン・サックスの変質なく、トレーディング部門に取引をもってくるサービス部門でよい」とまで言われ、社内で格下げされた組織もあるほどだ。 サブプライム危機が起こり、巨額の損失を出すまでは、彼らは自分たちの選択が正しいと信じていた。
投資リスクはコントロールできており、自己勘定投資は儲かる一方と考えていたのだ。 マネージメントの中に、先述のクロード・バラードのような保守的で慎重な考えを持つ人物は残ってはいなかったのだろう。
バンカー不足に陥ったアメリカいまアメリカでは、何でも相談できる頼り甲斐のあるバンカーが居なくなりつつある。 特に中小企業以下の規模の会社では本当に困っている。
これほどたくさんの銀行がありながら、彼らが興味を持っているのは大口取引(大手投資銀行では五億ドル以上の取引)だけで、手間隙かかる中小企業の小さな取引には無関心だ。 小さな会社を一所懸命に大きく育てるという、かつての投資銀行の精神は既に無い。
彼らが欲しいのは、「今期自分が儲かる巨額の取引」であって、「手塩にかけて育てる顧客」ではないのである。 そんな状況になってしまったからだろうか、巨大投資銀行の富裕層向けのプライベー卜・バンキング部門は、自分たちの顧客の必要とする投資銀行サービスを自社の投資銀行部門では提供できなくなっていることから、私の会社のような小さな投資銀行と提携し斡旋し始めた。
これほどに金融が発達したアメリカで、「アンダー・バンキング」即ち「バンカーが足りない」とは、何という皮肉であろうか。 世界に広がるウォール街流のやり方金融の世界においては、「読み書き算盤」のやり方が、徹底して「ウォール街流のやり方」に統一されつつある。
これはもはや止めようがないだろう。 一つの事例をご紹介したい。

三年前、私は、日本で初めてのマネージメント・バイァウト(MBO/経営陣による会社の買収)を試みたことがある。 対象の会社は関西のメーカーで、ある大手企業の上場子会社だった。
買収を申し入れた子会社の経営陣に、親会社の副社長は「君たちに売ってやろう」と約束し、メインバンクもこの取引を支持した。 関係者はこのMBOは成功するとの感触を掴み、私は経営陣にアドバイスし、買収資金をすべて準備した。
当時、既に外資系のプライベート・エクイティー・ファンドの中でも先見性の高い数社が数千億円の資金を準備して、続々と日本に進出し始めていた頃だった。 私は、MBOを行うに当たり、事業計画書を持って買収資金を出してくれそうな外資、日系のファンド社を訪ねた。
このうち提案書を出してくれたのは外資系四社、日系一社だった。 外資系ファンドの出した価格は、すべて一株あたり百四十?百六十円の間に収束し、日系ファンドは百八十円だった。
借り入れ金額を膨らませれば、高い株価を提案できる。 しかし、その返済義務を負ってMBOを実行する経営陣は、余りに大きな巨額の借金には篇路する。
本件ではさすがに百八十円の株価を出すことには経営陣もため息をついた。 ある役員が「こんなに借金しては、よう返せん」というほどに、飛び抜けて高い数字だったからである。

しかし、結論から言うと、このMBOは失敗した。 親会社の副社長が前言を翻し、株価が低いと言って、役員会にも諮らずに断ってきたからだ。
ここで学んだことがある。 一つは、同じ事業計画書を見せて正当な株価をはじき出して欲しいと依頼した場合、どのファンドもまったく同じように計算し、まったく同じような答えを出してくるということだ。
きっと彼らは、同じようなビジネス・スクールに通って、同じような投資銀行で修行をしたのだろう。 企業買収を行う際に使う指標の一つであるEBITDA(金利、税金、償却前利益)をはじきだし、EV(企業価値)は、その何倍あるかというEV/EBITDA倍率を使っているが、これらの数字については結果的には誰もが同じ数字を使っているということ。
また将来の収益の現在価値を算出する割引率もほとんど同じと言って差し支えない。 なぜ同じような数字しか出てこないかというと、「同じような考え方」しかしないからだ。
つまり、確実なキャッシュフロー(収入から外部への支出を差し引いて手元に残った資金。 その資金の流れ)だけを見て、事業を改革する、新製品を開発するといったグロース・ファクター(不確実な成長性)は無視し、まったく考慮しない。
確実な予想キャッシュフローを作ることに貢献するのは、不確実性を伴う成長ではなく、確実に自分たちでできるコスト・カットだけ。 それしか見ない。
コストをカットするだけなら、誰がやっても財務内容は改善する。 事業を切り捨てたり、従業員の首を切るだけで、劇的に改善する。
それを事業改革などと称して、あたかも改革が行われているかのような幻想を周囲に振りまく。 しかし、それは一時的に経営が改善されるだけで、数年後には必ず行き詰まる。

グロース・ファクターが一顧だにされていないからだ。 もしこれを考慮するならば、将来の絵はいかようにでも描け、個性が発揮され、数字の方もすっかり違うものとなるはずだ。
しかし、そのような考え方はされない。 それがウォール街流の共通したやり方であり、そのやり方を世界中に広げているのである。
しかし、彼らの資金を使おうとする場合は、好むと好まざるとにかかわらず、彼らのこの考え方に合わせるしかない。 他の論理で議論し、他の価値観を彼らに認めさせることは、ほとんど不可能かつ無駄な努力だからだ。
ゴールドマン・サックスを象徴とする投資銀行の変質を見ていくと、ウォール街のビジネスそのものが大転換していったことがよくわかる。

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